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甲子夜話

大城大奥の御雛は、世間の如く高く棚お設て並べ置くことは無く、席上に氈お鋪て並べ在りと雲、三月には拝見お免されて、婦女の輩は市坊の人にても、大奥の女員に親縁あるは、それ〳〵の部屋より手引して、御庭より御間中の御雛お見物するよし、拝見せし人の語なり、いかさま雛は公卿の形お作りしまでのものなれば、尊上にて貴るべきものには非ず、世上の所為は畢竟民間の習はしなり、