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守貞漫稿
二十七
四月八日灌仏会
三都とも諸所の仏寺にて花御堂お作り、誕生仏に甘茶おそヽぐこと也、又三都ともに、今日の甘茶お墨にすり、千早振卯月八日は吉日よ神さけ虫おせいばいぞする、と雲歌お書て廁に張置ば、毒虫お除くと雲伝へ、専ら行之こと也、其歌甚拙きこと雲に足らずと雖ども、古くより行れ、然も諸国に弘りしこと可笑の一つ也、又三都ともに今日ぺん〳〵草と雲お採り、五七茎お糸以て束子、逆に行灯に釣りて、虫除の呪とす、是亦其拠おしらずと雖ども、古く仕来ること也、ぺん〳〵草本名及び正字後考すべし、 大坂にては、今日毎家に竿頭に躑躅花お結付て、屋上に建る、或は一竿、或は二三竿お継て甚高くするもあり、釈尊に供る心歟、日天子に捧る意歟、未詳之也、〈◯中略〉今世江戸今日卯の花お売れども、門戸に挟むお見ず、専ら仏前に供ずのみ、