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嬉遊笑覧
六下児戯
洛陽集に、割ばさみいづれあやめぞ蓬ぞと、〈行正〉中古風俗志に、享保のころまでは、所々の広小路へ童集り、菖蒲にて大きなるふとき三つ打の縄おこしらへ、或は長竿等お持出、往来の子供へしやがめ〳〵といひて、下座おさせ、もし下座おせざれば打かヽりなどして、使につかはしたるは、小裯布など重箱おこはされ、はう〳〵逃かへりし事などありしが、今は絶てなしといへり、されど予〈◯喜多村信節〉が幼き頃までも、童共人家の檐なるあやめお、竹のわりばさみにて取あつめ、三つ打に組で持あるき、他所の小供お見れば、此縄にて地お打、草履お脱で下座せよと雲ふ、されども下座する童もなく、又絶てさするに及ばず、唯かくして遊ぶことなりき、今も此戯する処もあるべし、