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在京日記
本居宣長
宝暦六年六月十四日、暮かたきよく晴ぬれば、こよひより始てすヾみあり、三条のわたりへ用ありてまかりしかば、かへさに大橋へ出て、川原のけしき見侍るに、星の如くにともしび見えて、いとにぎはし、かヽる事は江戸難波にもあらじと思ふ、ましてさらぬいなかなどはさら也、 十八日、このすヾみの比は、みやこの中のにぎはしきおもしろき最中也けらし、すずみも廿四日迄、日延かなひ侍るよし、こよひなどはわきてにぎはしく見ゆ、 廿四日、すヾみもこよひかぎりとかや、ことしは十四日夜よりはじまりて、こよひ迄、一夜もかけ侍らず、さりけれ共、例より人もすくなかりしとかや、是より又鴨の糺のすヾみ也、 七年六月七日、けふよりひよりつヾきて、すヾみ一夜もかけず、そも〳〵七日のよより十八日までつヾける事は、十三年まへに有しまヽ也とぞ、