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宇治拾遺物語

世に宇治大納言物語といふ物あり、此大納言は隆国といふ人なり、西宮殿〈高明也〉の孫、俊賢大納言の第二の男なり、年たかうなりては、あつさおわびていとまお申て、五月より八月までは、平等院一切経蔵の南の山ぎはに、南泉房といふ所にこもりいられけり、さて宇治大納言とはきこえけり、もとヾりおゆひわけておかしげなる姿にて、むしろおいたにしきてすヾみいはべりて、大なるうちわおもてあふがせなどして、往来の者たかきいやしきおいはずよびあつめ、むかし物語おせさせて、我はうちにそひふして、かたるにしたがひて、おほきなる双紙にかかれけり、