[p.1207]
武徳編年集成
四十四
慶長三年六月十六日、夜に入嘉祥の祝あり、秀吉は上段褥の上に蒲団お布て著座、秀頼其傍に侍座せらる、其下段中央に、片木に色々の菓子お積んで並べ置、此席へは、中老、五奉行、近習のみ出座して是お頂戴す、其余毎席如是の品々の菓子積み置、官職の高下に依て其席お異にし、皆菓子お得て退くこと恒例の如し、秀吉、中老、奉行に向て曰、吾願ふ処は、秀頼十五歳に及ばヾ、海内の政お譲んと欲すること日あり、渠天下お管領し、此嘉儀お成すことお見ば、吾本懐たらん、吾命既に以竭んとす、遺恨少なからずとて落涙あり、伺候の輩涕泣して退く、