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古今要覧稿
時令
なぬかのよ〈七夕〉 七月七日のよお七夕といふは、ふるくよりみえたり、いはゆる一年邇(ひととせに)、七夕耳(なぬかのよのみ)、相人之(あふひとの)、と〈万葉集〉いひ、また今之七夕(このなぬかのよ)、続巨勢奴鴨(つぎこせぬかも)、と〈同上〉いへるによれば、なぬかのよといふべきお、いつの比よりか七夕おたなばたと訓るは、より所なき事也、されど延喜の比までは、七夕おなぬかのよといふ事たしかなり、いはゆる寛平御時なぬかのよ、うへにさぶらふおのこ共雲々、〈古今和歌集詞書〉又なぬかの日のよ読る、なぬかの夜のあかつきによめる〈同上〉などありて、一所も七日とかけるはなし、しかるお後撰集より以下、いづれも七月七日、又は七日のひに、或は七夕およめると〈後撰和歌集〉みえたり、以下代々の集おなじ、しかれば万葉古今の二集お正しとすべし、さて今日おなぬかひと〈古今六帖〉よみ、秋の七日と〈後撰和歌集〉よみ、秋のはじめのなぬかと〈新千載和歌集〉よめり、今夕お星合の空とよめるは、中むかしよりなり是花山院御時、七夕の歌つかうまつりけるに、藤原長能、袖ひぢて我手に結ぶ水の面にあまつ星合の空おみるかな、と〈新古今和歌集〉よめるおはじめとして、星合のかげとよめるも、おなじき比よりとおもはる、能因法師の星合のかげみぬ人のと〈後拾遺和歌集〉よめるおはじめ、是より以前には撰集諸家の集等に所見なし、此能因が歌も長能の家にてよめるとあれば、此比星合といふ詞はいひ出しものとおもはるヽなり、又天つ星合のよ、星合の浜などよめる歌もあり、あげてかぞふべからず、