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古今要覧稿
時令
七月七日二星に物お手向る事 凡二星にこよひ物お手向る事、ふるくよりみえたり宝治二年百首に、乞巧奠お常磐井入道太政大臣よませ給ふ歌に、しら露の玉のお琴の手向して庭にかヽぐる秋のともし火、とみえたるおはじめ、手向るとよめる歌外に数首あり、又たてまつるといふことは、いとふるくより見えたり、天のがは瀬ごとにぬさおたてまつると、〈万葉集〉みえしおはじめとせり、また七夕に星に物おかすといふ事も旧くよりあり、衣或は琴などの類、何物とかぎらぬなり、太郎百首に、玉のおごともけふはかさましとみえたり、かすとよめる歌はあまたあり、これらは皇国のならはしなれど、西土にも是に似たる事あり、咸与籍居道南、諸阮居道北、北阮富而南阮貧、七月七日北阮盛曝衣、錦綺粲目、咸以竿掛大布犢鼻褌於庭、曰未能免俗と〈晋書列伝〉いへるおはじめ、竹竿頭上願糸多と〈白居易詩〉みえ、七月七日雲々、暴経書及衣裳習俗然也と〈崔寔四民月令〉いへるおおもへば、これらの事いにしへよりの事にて、皇国にて今時竹竿に五色の短冊おつけ、家々にたつるもこれらによりしならん、又庭上にふみお置て、さほのはしに、五色のいとおかけて、一事お祈るに、三年の内に必協と〈公事根源〉あるは、全く暴経書及衣裳といひ、竹竿頭上願糸多といへるによりしなり、