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盂蘭盆は、倒懸と翻して、死者の倒懸の苦お救ふの義なり、即ち目蓮其亡母の為に、七月十五日に、衆僧お供養せし故事に依れるなり、或は略して盆と雲ふ、我が国にては、推古天皇の十四年に、斎お設けしお初見とすべし、朝廷にては、十四日に清凉殿にて御拝あり、又十五日には、太政官之お督して、供物お諸寺に送る、寺院にては法会お営み、施餓鬼等お為す、民間にありては、祖先の魂お家に迎へて供物お献じ、灯籠お懸け、僧侶は棚経と称して、戸々に就きて諷経するあり、又士女は街巷に集りて、唱歌歓舞するあり、又送り火とて、十五日若しくは十六日の夕、薪お焚く事あり、京都東山の大文字火等は、猶も著名なるものなり、又中世盆前に生身玉と雲ふ事ありき、蓋し盆中に死者お供養して、其魂お祭るに倣ひて、生存の人お饗応して、延年お祝するなり、