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菩提心集

問、人の子、なき親の為に、七月十五日、盆供といふ事するはいかなる事ぞ、 答、目蓮尊者の始て得道の聖と成て、うせ去りにし母の在り処お求むるに、餓鬼の中に生れて、飢せまり、骨皮のかぎりにて居たるお見て、鉢に食ひ物お盛りて食せ給ふ、かれ取りて食はんとする時に、左の手お打おほひて、右の手して飯おつかみて、口によする程に、火に成りてもえあがりぬ、目蓮尊者かなしびて、仏に申し給ひければ、仏のたまふやう、七月十五日は、仏歓喜したまひ、僧自資する日なり、其日百味飯食の物お鉢に盛りて、衆僧に供養せば、母の苦みお救ひてんと仰せらる、目蓮そのまヽにして、母の苦患お済ひたり、其おかたぎにて、此世にもするなり、七月の望の日は、仏の喜びたまふ日なり、其故は、もろ〳〵の僧、安居のつとめお、四月の十五日に始めて、九十日の程歩行かで、おの〳〵学問おこなひし、戒行つヽがなくして居たり、其つとめ常よりも励む、七月十五日に、日の数足りて、事なく行ひ得たり、しかれば仏喜び給ふ、衆僧は自資といふ行ひして、潔くして、おの〳〵外々へ去り趣く、年の夏ごとに、かくしつヽ数おかさねて、数まさるお上とし、少なきお下にするなり、