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東遊記

一松前〈◯中略〉 七月は、あらまし用向もすみ、静なる故、児女共皆躍おおどりて遊ぶ、躍は余国よりも上手也、精霊祭は、武家、町人、ともに七月十三日の夕、先祖の墓ある所にまうで、灯籠おともし、霊膳お備へ祭る、膳部も丁寧也、領主も御菩提所へ参詣し、自ら礼供おそなへ給ふといふ、町人百性といへども、皆麻上下お著し、拝礼厳重也、扠家にむかへ戻りて、十四日、十五日、座敷に座お設け祭る事、余国の如し、十六日、また菩提所へ送りゆく、その間其墓所に、灯籠香火などたゆる事なし、すべて此地にては、神仏へかりに参詣するにも、上下お著せざれば、まうでぬ事に心得たり、辺土なれ共、古風残りて、殊勝の風儀也、