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今昔物語
二十四
七月十五日立盆女読和歌語第四十九
今昔、七月十五日の盆の日、極く貧かりける女の、祖の為に食お備ふるに不堪して、一つ著たりける薄色の綾の衣の表お解て、磁の瓫に入れて、蓮の葉お上に覆て、愛宕寺に持参て、伏礼て泣て去にけり、其後、人怪むで寄て此れお見れば、蓮の葉に此く書たりけり、
 たてまつるはちすのうへの露ばかりこれおあはれにみよのほとけに
と、人々此れお見て、皆哀がりけり、其人と雲ふ事は不知て止にけりとなむ、語り伝へたるとや、