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守貞漫稿
二十七
七月十一二日比より、魂祭の具お売る、大坂順慶町、松屋町等、常に夜市ある所に専ら売之、又担ひて売巡るもあり、共にみいろみいろと呼ぶことは、桃柿梨以上お雲、三菓ともに食用にならざる程の麁果お売る也、梨お此時のみ、ありのめと雲、其他蓮葉、みそはぎ、粟穂、きび穂、稲穂、枝栗、折敷、土器、 苧売と経木も売れども、此二種は別に売巡るお専らとす、おヽがら〳〵、上板の経木と呼歩く、又菓物の内になうりと雲お加ふ、此なうり江戸平日食用にする丸漬瓜也、江戸にては食用にすれども、魂祭に不用、大坂は魂祭のみに用ひ、食用にせず、江戸にては専ら諸所に売る、十二日夜也、草市と雲、昔は十三日暁お専とせしが、二十年計以来、十二日夜に買之、売詞揃ひました揃ひましたと雲也売物は大略大坂に似たれども、経木なうり売らず、真菰、籬、藁細工の牛馬、ほヽづき等お売る也、真菰以下、京坂には不用也、〈◯中略〉
七月十五日お中元日雲、今日于蘭盆会お設く、故に或は上略して盆と雲、〈◯中略〉
今世大坂の魂祭は、大略持仏檀中に、下図〈◯図略〉の如き経木と号くる薄板に法名お記し、上下にさんある板に挟み、檀中に置き、供物お備へ奠る、今世江戸にては、大略仏檀中に祭るお略とし、専ら下図〈◯図略〉の如き棚お造り、四隅に青竹お立て、菰縄お張り、下には真菰筵お敷き、棚の周りには、青杉葉にて造りたる籬と雲お以て、棚の如くにす、此棚上に、常には仏檀に置る位牌お取出し祭る、〈◯中略〉昔は蓮葉麻売以下、魂祭の諸物お川に流せしと也、中古以来大坂にては、或比丘尼寺より官に請て、大坂中諸所に小舟お廻し、一町限諸戸より、十五日晩には辻番所に集之、右の小舟に送る事となりぬ、此魂祭の雑物皆各所用ありて価となし、其尼寺一年の費に足ると也、又江戸にては十六日の朝、近在の小百姓等、是も小舟お諸川岸につなぎ、市中お巡り、精霊さまおむかひ〳〵と呼び来る、此時棚の雑物お下し、敷たる真菰に包み、十二銭お添て与之、蓋舟お廻すと、市中お巡ると、同人には非ず、市中お廻るは困民なるべし、