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おとぎばうこ

牡丹灯籠 年毎の七月十五日より廿四日までは、聖霊のたなおかざり、家々これおまつる、又いろ〳〵の灯籠おつくりて、あるひはまつりの棚にともし、あるひは町屋の軒にともし、又聖霊の塚におくりて、石塔のまへにともす、その灯籠のかざり物、あるひは花鳥、あるひは草木、さま〴〵しほらしくつくりなして、その中にともしびともして、夜もすがらかけおく、これお見る人、道もさりあへず、又そのあひだにおどり子どものあつまり、声よき音頭に、容歌(せうが)出させ、ふりよくおどる事、都の町々上下みなかくのごとし、天文戊申の歳、五条京極に、荻原新之丞といふものあり、近きころ妻におくれて、〈◯中略〉
いかなれば立もはなれずおもかげの身にそひながらかなしかるらむ、とうちながめ、涙おおしぬぐふ、十五日の夜(○○○○○)いたくふけて、あそびありく人も希になり、物音もしづかなりけるに、ひとりの美人、その年廿ばかりと見ゆるが、十四五ばかりの女の童に、うつくしき牡丹花の灯籠もたせ、さしもゆるやかに打過る、〈◯中略〉その後雨ふり空くもる夜は、荻原と女と手おとりくみ、女のわらはに牡丹花の灯籠ともさせ出でありく、