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山城四季物語
四七月
十五日十六日の夜、松け崎、長谷、岩蔵、花苑踊の事、
松けさきは、本涌寺といふ堂の前にて、法花の題目にふしお付、拍子に合、老若男女おし交り、孫や子供おかたに懸てもおどるなり、此寺は、日蓮の末弟、日像の開基として、法花円純の学室なり、長谷、岩蔵、花苑にては、六字の念仏にふしお付、さま〴〵の花おかざり、匠おつくしたる、四角なる灯籠お戴ておどる、いづれも肝にいりたるひとふし、きはめて品ある事、都にも恥ずおもしろし、此所にては、氏神の前より踊初、其としみまかりたる亡者有家に行て、夜更までおどりありくなり、かくばかり、列年にもよほしたる事なれば、由来なきにしもあらじなれど、たしかに知者なしとかや、又播磨国姫路の、総社といふ宮にては、十五日の昼灯籠お戴て、男ばかり、太刀刀おぬきかたげ、けはしきさまして踊なり、是にも由来さだかならずとぞいひける、祭れる神は大己貴命なり、