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花洛名勝図会

如意岳〈◯中略〉 毎年七月十六日の夕方、京師の山にて送火お焼事数あり、就中此山の大文字の形勢遒壮、その地猶高岳にありて、連珠の如く粲然として明かに、嚇然として赤し、他の火に比ぶれば大に勝れり、土人伝ていふ、往昔此麓に、浄土寺といへる天台の伽藍あり、本尊阿弥陀仏、一とせ囘禄の時、此峯に飛去り、光明お放ち給ふ、是お慕ふて、本尊お元の地へ安置し、夫より盂蘭盆会に、光明のかたちお作り火お灯しける、爾後弘法大師、大文字に改め給ふ、星霜累りて文字の跡も圧(うつも)れしかば、慈照院義政公、相国寺の横川和尚に命ぜられ(○○○○○○○○○)、元の如くに作らしめ給ふ(○○○○○○○○○○○)と雲、〈山州名跡志雲、相国寺横川和尚と、将軍の臣芳賀掃部と、両人作る所也、掃部は和尚筆道の弟子なり、火の数七十二ありと雲々、〉