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後水尾院当時年中行事
上七月
御めでた事、盆前此事有、日限不定也、兼日、宮門跡御比丘尼衆、内々の男衆、ふれもよほされて伺候あり、正親町の院の御時までは、宮門跡御比丘尼衆等伺公なし、旧院〈◯後陽成〉の御時も、たヾ一度おの〳〵祗候にて、今出川前右府晴季公抔も、座につらなられしとかや其後はおの〳〵召はあれど祗候はなし、長座窮屈人々暑気にたへざるによりて斟酌有なり、其ゆへに日おかへて伺公あれば、是も御三間にて二こんまいりて天盃たぶ、天酌まではなし、各伺公の時は、十一献十三献に及で、あけはなるヽ事のみにて有けるとや、今はさまではなけれども、毎度暁天に及、御座已下公卿の座にいたるまで、かまへやうみな月におなじ、女中おの〳〵まろすヾしお著用、先初献〈はうぞう〉御盃一こんまいりて、女中呑とおる、二こん〈そろそろ〉御そへくしまで供じて後男おめす、公卿すのこの座につく、蔵人そろ〳〵お公卿のまへにすえわたしてのち、内侍御前の御汁おもてまいる、公卿にも汁おたぶ、御はし下る、内侍御かへおもて参る、公卿にもたぶ、蔵人すヾの鉢に入てもていづ、公卿給りて、御盃まいる、女中とおりて後、蔵人酌にて、公卿に座ながら、殿上人は公卿の座の末に而召出してたぶ、其後公卿の座のうしろに候ず、三こん御ひらは第一の上臈の酌也、女中の座おいざり出て、女中公卿以下召出て、御とほりおたぶ、四こん〈まん御そへくしあり〉は、次の上臈の酌なり、勿論御前の御陪ぜんは、とほしの様前におなじ、五こん〈鳥〉は、天酌なり、六こん〈うり〉お供ずれば、公卿侍臣にもうりたぶ、みな月のごとし、御箸くだりて後各給はる、此度は又次の典侍の酌なり、もし上臈分の人不足の時、勾当内侍人数にくはヽるなり、七こん〈ひとつもの〉お供じて後、五すへお供ず、御右の方のはしにあり、此度は公卿の酌也、第一第二おいはず、公卿の中可然人也、女中は座ながら、男はめし出さる、酌の人の手前は、次の人酌に替る也、常の事也、天酌の頃より、うたひなどうたひて、公卿の座のまへに、かはらけのもの二つ出る也、天酌の後、公卿たがひにとりてあたふ、事はてヽ入御、みな月に同じ、