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梅松論

一或時夢窻国師談議の次に、両将の御徳お条々褒美申されけるに、先将軍〈◯足利尊氏〉の御事お仰られけるは、国王大臣、人の首領と生るヽは、過去の善根の力なる間、一世の事にあらず、ことに将軍は、〈◯中略〉御心広大にして、物惜の気なし、金銀土石おも平均に思召て、武具御馬以下の物お人々に下給ひしに、財と人とお御覧じ合る事なく、御手に任て取給ひし也、八月朔日などに、諸人の進物共、数もしらず有しかども、皆人に下し給ひし程に、夕に何有とも覚えずとぞ承し、