[p.1335][p.1336]
松の落葉

菊のきせわた 菊にわたおきするは、花の香お綿にうつしとりて、そのうつしの香おもてはやすためにぞありける、そは清少納言の枕冊子に、九月九日は、暁がたより雨すこしふりて、きくの露もこちたくそぼち、おほひたる綿などもいたくぬれ、うつしの香ももてはやされたるとあるにてしられたり、さるお春曙抄といへる此冊子のちうさくに、きくに綿おきするは、菊おもてあそぶあまり、寒霜おふせがんとのこヽろざしなりと、とけるやうのひが説もあれば、今くはしくときあかしてん、後撰集に、となりに住はべりける時、九月八日、伊勢が家のきくに綿おきせにつかはしたりければ、又のあしたおりてかへすとてと詞がきありて、伊勢の御の歌おしるしたり、九月八日に、となりの菊に綿おきせにつかはすは、九日の重陽宴にうつせる香おもてはやさんとてぞ、又のあしたその綿おかへすにてもしるべし、折てかへすといへるは、きくの花にきせたる綿お、枝ながら折てかへすにて、しかするは道のほどに、うつせる香のうすくやならんとおもふこヽろしらびにこそ、これお見てしるべし、はじめにいへるおのが考のごとくなることお、