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幕朝年中行事歌合

廿八番 左 玄猪
秋おおきて時こそあれと咲花の鏡はけふのもちいなりけり〈〇中略〉
玄猪は亥の子と称せり、十月上の亥の日お用ひらる、障あれば後の亥お用ひらるヽこともあり、溜詰、譜代の大名、外様にも藤堂、立花、遠山、片桐の類、むかしより出仕せし家々のものは、皆熨斗目長袴著て城にのぼる、暮かヽる頃より、白書院におほく灯お点じ、両御所上段に著御在、五色の餅ひ薄盆に盛て、菊の花お摘そへて御前にすヽむ、布衣より以上の輩には、御みづから是お賜ふ、次に大きなるひら台ふたつに、餅あまた積重て、しきみのきはにおき、布衣以下の司、もろもろの番士同朋に至る迄、七人づヽ出て、台にある餅お取てまかづ、此夜両御所御のし目のしたに、紫の御衣お奉るとなん、是室町家などの、ふるき世のすがたなるべし、