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古今要覧稿
時令
那 那〈続日本紀、延喜式、内裏式、河海抄、按に那は儺の音なり、礼記月令の注にも、難音那とあり、是なやらふとも、なやらひとも、はたらかせていへり、年中〉〈の疫気おはらふ義也、此事の始て行はれしは、文武天皇慶雲三年十二月より也、或は元年よりとも、二年よりともいふ説あれど、正しからず、〉難〈周礼、礼記月令集説、按に義上におなじ、礼記月令の注に、難与儺通とみえたり、〉儺〈続日本紀、延喜式、内裏式、論語、後漢書、荊楚歳時記、南部新書、玉燭宝典、按に、先臘一日大儺、謂之逐疫と、後漢書礼儀志にみえたり、又儺人は砺鬼お逐もの也、いはゆる儺人所以逐砺鬼也と、礼記にみえたり、〉なやらふ〈延喜式、小野宮年中行事、源氏物語、江家次第、河海抄、按に、河海抄に、儺お追事なり、鬼やらひといふ、追の字おやらふとよむなりとみゆ、〉追儺〈延喜式、小野宮年中行事、栄花物語、雲図抄、濫觴抄、按に、古へついなとも、なやらふとも雲り、其証は、源氏物語紅葉の賀に、なやらふとて、いぬきがこれおこぼち侍にとみえ、栄花物語月の宴に、つごもりのついなに、殿上人ふりつヾみしてまいらせたればとあれば、其頃ついなとも、なやらふともいはれしことしられたり、〉おにやらひ〈年中行事秘抄、河海抄、建武年中行事、公事根源、按に、河海抄に、儺お追事なり、鬼やらひといふ、追の字やらふとよむ也、又儺の一字お鬼やらひと読なりとみえ、又行事秘抄に、金谷お引て雲、陰陽の気相激、化為疾癘之鬼、為人家作病とあれば、此疫鬼おはらふお鬼やらひとはいへり、又後漢書礼儀志にも、悪鬼お禁中に逐ふとあるもこの義なり、〉行儺〈月令広義引呂覧、按に、行儺といふも、追儺といふに義同じ、行字やるといふ意あれば、やらふといふ義にて行儺と名付たり、〉害除〈同上、按に、同書に、駆疫癘之鬼、謂之害除とみえたれば、是も義上におなじ、〉逐除〈同上、同書に、行儺、今所謂逐除也とみえたれば義明なり、〉逐疫〈後漢書礼義志、同書に、先臘一日大儺、謂之逐疫とあれば、儺の別名なること明かなり、〉