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道の幸

廿三日、〈◯寛政四年十二月、中略、〉菊川にいづれば、家ごとに長き竿にいがきつけて、しきみさしたるお、庇の柱にゆひそへて立たり、何ぞととへば、けふはせちぶでござりますから、鬼おどしおたてまするといふ、しきみにやととへば、かうの葉なりといふ、猶とへど、しきみとはいはで、かうのは、かうの実などいふ、金谷、島田、水の上などまでおなじさまなり、いはしの頭は見えず、あたらしき箸お折て、かうの葉おまきて、ねぎおはさみて、戸にさすこともありといふ、松島の日記に、あすは年かへる日なりとて、松にしきみおたてそへと見えしもおもひ出らる、又藤枝のあたりは、ひヽらぎにしきみおそへたるも見えし、こよひは藤枝にやどる、そのやどりにて豆はやしす、〈◯節分〉酉のおはりに、あやしのおのこ袴きて、煎豆入たる升お箕の内にのせて、あきの方にむかひ、鬼は外三声、福は内三声、一声ごとに豆一まきづヽうちて、打おはれば、三方に紙しき、いり豆もり、ひヽらぎの枝そへてすへたり、所がらめづらかなる年の夜なりけり、