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老牛余喘
初編上
かに払 或書に、増山井に、かに払、煤払と並出せり、按るに、竃払なるべしと見ゆ、おのれ思ふに、此説ひがごとなり、こは蟹払といふ言にて、大内の煤払お雲辞ならむ、此故に煤払とならべて上に出せる也、田舎にては聞もつかぬ詞なり、京人は大内詞お聞ならひて、わきまへなく、下々の家の煤払おもしかいへるお、増山井には其まヽ記せるかとおぼし、しかいふ故は、官名の掃部(かもん)は、かにもりと雲事にて、宮中の払清めする官お雲也、そは彦瀲尊お海浜に生奉りて、母神は海宮へ帰給ひければ、蟹の集るおはらひし神お蟹守といひし事有、其詞転りてかもんといふよし、古語拾遺に見ゆ、〈◯中略〉此故事にて、大内の煤払おば、かに払といふ事とおもほゆる也、故実しれる人にきかまほし、