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小文庫
煤掃之説 明ぼのヽ空より、物のはた〳〵ときこゆるは、畳おたヽく音なる可、けふは師走の十三日すヽはきのことぶきなり、げにや雲井の儀式、九重の町の御法は嘉例ある事にて、唯なみ〳〵の人のすヽはく体こそいとおもしろけれ、おの〳〵門さしこめて、奥のひと間お屏風にかこひなし、火鉢に茶釜おかけて、嫗が帷子の上張、爪さき見えたる足袋もいとさむく、冬の日かげのはやく昼になりゆき、庭の隅調度どもとりちらしたる中に、持仏のうしろむきたるぞめには立なれ、家の童の椽のやぶれ、すのこの下おのぞきまはるは、なにおひろふにやとあやし、味噌とよばる大男の、袋かぶり蓑きたるもめづらかに、米櫃のさんうちつけ、俎しらげ、行灯はりかへて、たつくり鱠、あさづけのかほり花やかに、かみしもの膳すえならべたるに、ほどなく暮て、高いびきとはなりぬ、