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民間備荒録
上凡例
宝暦五年乙亥五月中旬より寒冷行れ、八月のすえまで雨ふりつヾき、其間五日七日雨歇といへども、寒気は初冬の頃のごとく、三伏の暑日も布子お襲(かさねぎ)し、水田へ入りて芸る者は、手足ひへ亀手(こヽへ)ぬる程の寒気なりければ、稲は植たるまヽにて長ぜず、漸く穂は出たれども、みのらずして枯れぬる故、奥羽おほひに飢饉し、諸民の歎いふばかりなし、我一関には儲蓄倉おひらかせたまひ、大夫( /家老)司農( /郡代)の侶、心お尽し救はせられけるゆえ、餓符の患はあらざれども、他郷より来る流民、鵠形鳥面の老弱男女、蟻のごとく群来るは、目もあてられぬことどもなり、