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救荒事宜
草木おもて食とする事 松皮お食して毒に中りしことお、備荒録にいへど、天明の凶年の事お知りし人に尋るに、上方筋にては、毒に中りしことはかつて聞ずといへり、奥羽辺にては、その製法お得ざりしにや、或人の抄録お見しに、松お食ふ法と、藁お食ふ法とお載せたり、松お食ふ法、松は何によらずといへども、雄松老木の皮お最上とす、甘はだは苦みあり、それゆへ上一皮おへぎとり、碓にて舂て、磨にてひき、糊こしすいのうにて篩ひ、細末にするほどよし、是お蓋のよく合ふ釜か鍋に、水多く入れたるにかきまぜて、煮へ立て蓋お取らず、明る朝迄それなりにおけば、若木にても渋苦みは固より、匂ひもなくなる也、あく気お流す時、粉のこぼれぬ様にし、味噌漉の内へ敷布おひろげ、その上へ打あくべし、砂あらばゆりて其布にて直にしぼり、餅団子に入るならば、干に及ず、餅は常の通米おこしきに入れ、其上へ松の粉おひろげおき、米の蒸せるお期とし、臼に入てつく也、猶手水おひかゆべし、香煎にするには、あくお抜たる粉お日に乾して炒也、老木は灰汁ぬきせずして可也、〈以上は享保十八丑年五月、大坂井上某これお貧家につぐ、寛保三年亥二月、江戸本船町大倉氏、この事お貧家につぐ、〉藁お食ふ法は、藁の根元四五寸、末五六寸お切すて、二三分づヽに刻み、二三日水に浸し、よく干し、炮烙にていり、臼にてひき、粉にして糊こしにて能くふるひ、何にても二三分まぜにして、蒸籠の類にてむし、臼にてつきても、すり鉢にて摺りてもよし、餅団子に製し食する也、〈大坂船場の人、何某の法、〉