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農喩
第八 かておたくはえし人の事 ある所に米穀は雲におよばず、凡くひものになるべきほどの色品おたくはひ、何によらず心お用ふる事のくはしき人ありけり、毎年秋の末に至り、里芋お刈取るせつ、茎おば皆ほしあげてたくはひ、又きりすてし芋の葉おも遺さず取集めおき、よき日よりには庭へひろげてほしあげ、扠家内中かヽりてもみこなし、其葉お紙袋におし入れ、しめりけ虫気のつかざる様に、心お用ひ手入おして、年毎におほくたくはひおきけり、かくて此ききんの時にいたり、此芋の葉の貯お出して、雑穀にまじえつヽくひければ、そくばくの日数うえお凌ぎて、大きにたすけとなり、又人にもあたへしときこえしは、よき心がけと知るべし、