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兎園会集説
奥州南部癸卯〈〇天明三年〉の荒飢     山崎美成〈〇中略〉
何品によらず、食物に相成候類、過分の直段に御座候間、食物在々無御座、蕨、野老(ところ)、葛等お堀り食事仕候、夫も幾千万人と申、限りなき事に御座候間、さしもの大山お忽に堀尽し申候間、葛蕨の粕、あも、さヽめなど申もの計食事に仕候に付、右の毒に中り、五体腫れ、大小便不出して、忽ちに相果候者数知れ不申候、当九月比、乞食共犬猫猿等お食事に仕候事承り候て、肝お潰し候処、去月よりは、犬猫は不及申、牛馬お打殺、食事に仕候、非人乞食等は、眼前犬猫おとらへ、塩も付けず喰候体、誠に鬼共可申哉、おそろしとも何とも可申様無御座候、〈〇中略〉
一唯今難渋の者共食事には 一あも香煎〈是はわらびの屑おたヽき、さらし粉お取申候かすお、ささめといふ、細成るおあもといふよし、〉 一松皮香煎 一同餅 一藁採(しべ)香煎 一豆がら香煎 一犬たで香煎 一あざみの葉〈〇下略〉