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標註職原抄別記

氏長者
上古わが朝に、臣民お御たまへる制は、官位おば用ひ給はで、姓氏になむ因らせ給へりける、さるは姓は公家に仕るかたの職名、氏は族類お別つかたの称号とこヽろえなば、おほやう違ふべからず、〈○註略〉そはいかにといふに、姓お加婆禰〈続日本紀に骨名、また根可婆禰共あり、尸とかけるは古書に甚多し、〉と雲は、頭根(かぶね)の義にて、〈夫(ふ)と婆(ば)と通音なり、頭お加夫と訓むは、頭椎剣の例にて知 べし、〉氏中の宗長たる者、その頭として同族お率ひ、公家に仕奉るよりいふ称にて、中臣忌部の職は、上件の如くなれば更にもいはず、たとへば膳臣は、景行天皇の御代に、膾お調で進りしに、其味美かりしかば、膳大伴部おたまへりき、それより以来膳部等お率ひて仕奉るお職とせり、また土師連は、垂仁天皇の御代に、埴輪に替て人命お助たりける功によりて、土師連おたまへりき、それより以来土師等お率ひて仕奉るお職とせり、その外鳥取部の飛鵠お捕り、和薬の牛乳お献て名お得たる類、皆その職名お同族にわかちて、これお氏といひ、〈氏お宇知といふは、或説に内の義なりといへり、さもあるべき歟、なほ考べし、〉某氏人お統掌て仕るこれお姓(かばね)といふ、されば臣姓の人は、その臣にかヽれる職名お負たる氏々お率て仕まつり、連尸の人は、その連にかヽれる職名お負たる氏氏お率て仕まつり、直も首も忌寸も別も、皆かくの如くにて、臣連二造、ことごとく大臣大連の二大臣に統摂られたるが、太古職お代々にする世の制なりき、