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玉勝間

国造
いにしへに国造といひしは、今の世のごと、大きにこそあらざりけめ、大かた何事も大名の如くなる物にて、国々に多く有し也、それが中に国造、また君、また別、又直、又稲置、また県主などいふ色色の有て、尊き卑きけぢめも有つるお、そのけぢめは、さだかに記せる物なければ、いづれ尊く、何れ卑かりけむ、今こと〴〵くは、わきまへがたけれど、大かたは皆国造と同じさまなる物にて、此色々お一つにすべても、国造といへりき、書紀などに、伴造国造などあるは、かの色々おすべて、一つに国造といへる也、さてもろこしの国にも、いにしへ封建の制とかいひし代の諸侯といふ物、これによく似たり、其諸侯に五等の爵とて、公侯伯子男と、五きざみのしな有し、それはた国造君別などの色々ありしににたり、其しなの中の一つの名おとりて、すべて諸侯といひしも、又すべておも国造といひしに似たり、もろこしの事は、かの国のまなびするともがらは、此諸侯の五しなの事など、たれもよくしれるお、皇国のいにしへのさまおば、かへりてよくしれる人なくて、国造の中に、かのくさ〴〵のしな有しおもしらず、又かの色々はいかなるさまの物ならしともしらであるはいかにぞや、