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姓序考
道師
道師姓は、天武朝廷の詔に、八色姓お定め賜へるとき、五曰道師とみえしのみにて、諸氏に賜ひしこと国取史みえず、〈此御世に改定め給へる真人姓は、十三年冬十月己卯朔、十三氏に給へり、朝臣姓は、十一月戊申朔、五十二氏に給へり、宿禰姓は、十二月戊子朔己卯五十氏に給へり、忌寸姓は、十四年六月乙亥朔甲牛、十一氏に給へり、この後に道師姓お給へることあるべきに、さらにそのことみえず、〉故思ふに、忌寸姓さへ給へるとき、はつかに十一氏なりしかば、道師姓はことに少かりしにこそありけめ、さるから自然絶しにやあらん、又思ふに、道師姓は、文字のごとく、諸道の師といふ意にて置れし姓にや、さならんには、伴造お如此大号にいはれしにてあるべし、〈国造はひとつの姓なれど、大号のかたなになれば、公、国造、県主、村主の四等姓のことになれり、〉件造は既雲しごとく、種々の職おなせるものにしあれば、其部曲の人々の其業にたえたるものお集へて、そのことヾもつくり出て貢進れるなれば、造おさして諸道の師匠なりとの意にて造師といはれしならめ、是は大号に〈道師と〉のみ雲ひて、其氏々に賜へるには、旧のごごく某造と賜ひしなへに、直に道師といふ姓のなきにこそあらめ、さるから八色姓お改定め給へるとき、造姓お雲れざれども、後世に造姓いと多し、決く造姓お如此雲しならん、このふたつのこと思別がたければ、其大旨おしるしぬ、なほ能可考こと也、