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古今著聞集
六/管絃歌舞
保延元年正月四日、朝覲行幸に、多忠方、胡飲酒おつかうまつりけるに、此曲たび〳〵御覧ぜられつるに、今度ことにすぐれたるよし、おほやけわたくしさたありけり、左大臣〈○藤原家忠〉勅お承りて、一階おたぶよし仰下されければ、忠方再拝して舞て入けり、かヽる程に、忠方右舞人たりといへ共、左舞お奏して勧賞おかうふる、左かならず、賞お行はれずども何事かあらんや、又狛光則、多忠方、いづれ上臘たるぞやのよし議定ありければ、左衛門督雅定卿申されけるは、光則忠方、同日に勧賞かうぶりて叙爵す、多は朝臣なるによりて内位に叙す(○○○○○○○○○○○○○○○)、狛は下姓〈○宿禰〉によりて外位に叙す(○○○○○○○○○○○○○)、忠方上臘たるべしとぞ申されける、よく舞によりて賞おかうぶる、光則よく舞はヾ行はるべし、幽ならずば行はるべからずと申けり、或は左右ともに行はるべきよしおも申けり、光則七旬に及べり、哀憐有けるにや、つひに散手お奏する時、一階お給てけり、