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安斎随筆
前編十二
一豊臣氏 橘嘉樹雲、秀吉初〈め〉平と称し、又藤原と称し、後豊臣と称す、平と称し、藤原と称せしに拠れば、豊臣は朝臣なるべし、然れども旧記に豊臣朝臣と書たるお未見雲如何、貞丈雲、秀吉は本匹夫の子也、故に姓尸なし、姓尸は天子より賜る者也、国史に賜藤原朝臣姓、賜朝臣姓とある是也、豊臣は賜たるに非ず、秀吉が自作なるゆへ尸なし、姓名録抄に、無尸姓と雲部あり、豊臣も無尸の姓とすべし、尸お書べからす、又雲、秀吉無姓が故に、偽て或は平と称し、或は藤原と称せし也、此偽作姓に拠て、豊臣も尸は朝臣なるべしと雲は誤也、〈姓氏尸のこと、別に弁あり、今世俗に従て、姓尸の二字お用て雲なり、古義は別冊にあり、〉