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氏族考

古しへの人は、その心すべて雄々しく健かりければ、其名お後の世に広く遺し伝ふるお専とぞしたりける、故高橋氏文にも、大俊国者、以行事負名国奈利と雲る如く、名と雲ものは、貴きも賤きも皆其人お美称へたる方にて、名お呼ぶは其人お敬ひ賞(めづ)る意なる故、国造の人さへも、吾名おば草木に著じと雲て、国名に負せしかば、況て天皇皇子の御名おば、山川国土に負せて、万世までも広く遺し伝ふべき事なるお、人の名お呼ぶは無礼と諱憚る事となれるは、漢国の風俗にならへるにや、御世々々に御名代お定置れしも、其御名お物に因せて遺し賜はむとての御所為なるお、此孝徳天皇の御世に、其御名お軽々しく呼事お畏しとて、是お罷られしは、古への意ごは反対(うらうへ)なり、