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玉勝間

苗字
藤原源などは、世に同じ氏の人、数しらずおほかれば、その内お苗字して分ざれば、いとまぎらはしきまヽに、つねにその苗字おのみよびならひて、むねとなれる、これおのづから必しかるべきいきほひにして、今は此苗字ぞ姓の如くなれりければ、姓のしられざらん人などは、苗字お正しく守るべきわざなりかし、さてこの苗字の苗〈の〉字は、よしなきことなり、こはもと名字なりけむお、然書ては、名又あざなにまぎるヽ故に、かきかへたる物なるべし、名字とかヽむもあたれるにはあらざれども、中昔には、名おも、又姓と名とおつらねても、ひろく常に名字といひつれば、姓の小分おも同く然いひならへりしなり、又今の人、おのが子のことおも、父の事おも、同苗といふ、これももと同名にて、同姓のよしなり、