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北条五代記

百姓気なげおはたらく事
聞しは昔元亀二年の秋、北条氏政と佐竹義重ひたちの国において対陣のみぎり、〈○中略〉百姓御まへに参候す、一人申けるは、それがし岩井の百姓にて候が、味方毎夜草に臥候お、兼て存ずる故其心がけ有て、竹鑓一挺支度いたし、今夜の夜討に味方の中へくはヽり、さんおみだしたヽかふ時に、敵とそれがしたがひに鑓くみ、それがし左のかいなお一鑓つかれ候へ共、敵おつきふせ首取て候と申、氏政聞召、百姓として気なげのはたらき奇特の旨、直に御ほうび有て、〈○中略〉此度の勲賞に、百姓お点じ侍とし、在名お用ひ岩井お名のり、官は兵庫助になし下さる、今日より岩井兵庫助と名付べし、其上岩井の郷お領知し、永代子々孫々他のさまたげ有べからず、御はたもとに罷有て以来忠功おはげますにおいては、かさねて賞おあておこなはるべき者也と雲々、