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宮川舎漫筆

系国の奇験
予〈○宮川政運〉次男お従弟なる加藤家お継にしめたり、此家の系国は、小身には珍敷委しき系国にて、神代は天児屋根命より引、太織冠の末裔にして、いと細密なる事、筆に尽しがたし、この系図につきて一つの話あり、予叔父なるもの、至て貧しき折、出入の町医師高木貞庵といへる者ありしが、文政のはじめ、此医師系図お見て、殊の外懇望にて、金子弐円金にて預りし処、其翌年医師来り、昨年御預の品、まづ返上いたし度よし、叔父がいはく、我家大切の品に候まヽ、何れ其内金子調達の上受取べしと答ければ、医師、金子はいつにても宜敷、御系図は返上いたし度候、其子細は、手前家内の者、昨年より兎角病人勝にて、種々手お尽し、其上愚成る事ながら、家相又は方位にてもあしきにやと、卜者井上東馬といへる者に占はせし処、〈此卜者は、あづま橋向にて高名の者也、〉これは何か有間敷品の障のよし申聞候処、さし当り他所よりの品は、御系図より外に心当りの品も無之候儘、右故御返し申度といへるに任せ請取供処、不思儀なるかな、其後彼医師方の病人も全快せし由にて、右の醤師礼に来りしと雲、叔父方にては、金子返金になれば、此方こそ礼おいふべきお、向方よりの礼は、おかしと噺されける、