[p.0450][p.0451]
標註職原抄

長者とは、氏中にて官位譜第一の人おいふ、天智紀三年の件に氏上あり、その他続紀、中臣系図等に見えたる氏上、共に後の氏長者の事也、長者の称の所見は、後紀延暦十八年十二月の件に、宗中長者とあり、これ始なるべし、太古は職お家に伝へて、官お朝に受るの制なかりしゆえに、姓尸お重くせり、されば大臣は臣姓の中の長者、大連は連姓の中の長者といはんが如し、やう〳〵後に至ても、なほ此制みだれず、同宗の中、第一の人お宣旨にて氏上と定め、一氏中の事お行はしめ玉ひしかば氏上たる人、氏人お率て朝廷に奉仕したりき、これに仍て氏上は誠に氏中のいとおもき者なりき、然るに選官の制いよ〳〵盛になり、恪勤の労、臨時の功によりては、宗中の長者おこえて抜擢せらるヽ者もありなどして、いつとなく氏長の勢むかしにかはれり、されども藤原橘の如きには、なほ長者の称のこりしからに、此抄にかく殊に載られたる也、まことは長者といふこと、藤原橘にかぎるにはあらず、いづれの氏にもありし也、