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予章記
頼朝卿天下お打静給ひ、鎌倉由井の浜にて大酒宴有けるに、緒侍座の位、定て諍可被申、然者先初おば御定可有とて、頼朝小折敷お御取寄有、座牌お定め給お、先一文字お被遊、我前被置、北条殿の前には二文字、河野殿の前には三文字お被書被置ければ、兎角雲人もなかりけり、抑当家幕紋事、先祖三並、夷国退治のために、日本より大将にて被渡ける時、三番目たりし、其時幕の紋一 〓(すはま)也、伊予皇子、御下向之時の例也、異国にて似たる紋共有て紛ければ、河野殿の船には、折敷お角違に、挿舟の先に被立けるに、其影白々と海水に移りたるに、三文字見えたり、奇異の想おなす処に、其船より日本軍得利、早帰朝有し故に、幕の紋にも用之、其三文字、波に移りたる体にて、縮三文字也、折敷も隻四方なる折しき也、其後定らざりしに、今由井浜の座位、天下三番なりければ、名誉とて先祖の吉例起たり、但此紋は角折敷に正三文字、折敷縁有、五納懸にて一端に二帖也、十枚也、一帖五枚づヽ有ば五枚折敷共雲、総領計なるべし、其外は二納或は三納也、其一帖十枚なるべし、