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太平記
十八
瓜生挙旗事
瓜生判官保、足利尾張守高経の手に属して、金崎の責口にあり、〈○中略〉折節陣屋お双べて居たりける、宇都宮美濃将 〓と、天野民部大輔と寄合して、四方山の雑談の次に、家々の旗の文共お雲沙汰しける処に、誰とは不知、末座なる者、二引両と大中黒と何れが勝れたる文にて候覧と問ければ、美濃将 〓、文の善悪おば暫置く、吉凶お雲者、大中黒程、目出き文は非じと覚ゆ、其故は前代〈○北条氏〉の文に、三鱗形おせられしが滅びて、今の世二引両〈○足利氏家紋〉に成りぬ、是お又亡さんずる文は、一引両〈○新田氏家紋〉にてこそあらんずらめと申ければ、天野民部大輔勿論候、周易と申文には、一文字おば、かたきなしと読で候なる、されば此御文は、如何様、天下お治めて、五畿七道お悉敵無世に成ぬと覚えて候と、字に付て才覚お吐ければ、〈○下略〉