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四季草
秋草中衣服
一家の紋の事
紋といふは、衣服に五所に付るおのみ紋といふにはあらず、すべて物の模様お紋といふなり、束帯の時、上に著する装束お袍だ雲、此袍は綾お以て縫なり、其綾に様々の織紋あり、天子のめす黄櫨染といふは、桐竹鳳凰麒麟の織紋あり、麹塵の御袍には、唐草に鳥の織紋あり、赤色の御袍には、唐草に窠の内に菊の紋あり、〈○註略〉又臣下の袍には、或は浮線綾の丸、或はくつはからくさ、或は輪無、或は輪違等の紋あり、此外家々に定りて用る紋あり、〈これお定紋といふ、各家の紋なり、〉右は公家の事也、武家の紋は、旗幕の目じるしなり、是は保元平治の合戦の頃よりはじまりし事歟、後には旗幕ならでも、衣服にも紋付る事になりしなり、宗五記に雲、公方様御服と申は、織物〈色御紋不定〉白きあや、又はあやつむぎお、地おいろ〳〵に染て、御紋むらさきなどに付候雲々、是は東山殿〈義政公〉時代の事なり、御紋不定とあるお見れば、其頃は衣服には、家の紋にかぎらず、何紋にてもつけしなり、後世には必家の紋の外には付ぬ事になりしなり、