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嬉遊笑覧

明石〈○猿若勘三郎〉が母は、中村姓にて、紋は角の内銀杏の葉と雲へり、後これお用ふる事は、加賀見遠清が、江戸砂子標識にいへり、菱川が画に、勘三郎芝居の、やぐらの幕紋、丸の内に舞鶴おかけり、今の鶴の丸とは形ことなり、昔は幕の紋にも鶴お付たるが、堀川百首題狂歌、安井了忠、舞にしも舞たる鶴は其家の紋ぞと人のいばら左衛門、といへるは、舞師の紋およそへたる歌と聞ゆ、鶴はよくまふものなれば、舞々が紋に用ひしなるべし、勘三郎が鶴の紋も、それらの流にや、朝比奈が鶴の丸の紋は、中村伝九郎が狂言よりなるべし、