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比古婆衣

建内宿禰の名の唱
建内宿禰の名は、兄お味師内宿禰(うましうちのすね)と称へる味師に対へたる美称にて、多祁志宇智宿禰(たけしうちのすくね)と称ひしなるべし、其はまづ古事記に、兄の名お味師とあるお、書紀には甘美と書き、姓氏録には味と一字に書るおおもふに、宇麻志の志は、甘美の活言なる事著し、弟の名も同じさまに相対へて、多祁志と唱へるに、建字お当て書るなり、書紀などに武字お書るも同じ、かくて其兄弟の名の、味、建、といふに、内の宿禰と引合せて呼べるなり、古事記仁徳天皇の御歌に、建内宿禰の事お、宇知能阿曾(うちのあそ)とよみ給ひ、神功紀に見えたる、熊之凝が、御軍人に向ひて唱へる歌にも、于地能阿曾(うちのあそ)といへるおも証とすべし、