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玉勝間
十四
今の世人の名の事
近き世の人の名には、名に似つかはしからぬ字おつくこと多し、又すべて名の訓は、よのつねならぬがおほきうちに、近きころの名には、ことにあやしき字、あやしき訓有て、いかにともよみがたきぞ多く見ゆる、すべて名は、いかにもやすらかなるもじの、訓のよくしられたるこそよけれ、これに名といふは、いはゆる名乗実名也、某右衛門某兵衛のたぐひの名のことにはあらず、さて又其人の性といふ物にあはせて、名おつくるはいふにもたらぬ愚なるならひ也、すべて人に火性水性など、性といふことはさらになきことなり、又名のもじの反切といふことおえらぶも、いと愚也、反切といふものは、たヾ字の音おさとさむ料にこそあれ、いかでかは人の名、これにあづからむ、