[p.0636]
沙石集

上人の子持たる事
一信州塩田の或山寺に上人あり、三の腹に三人の子お持り、初の腹の子は、まめやかに忍ければ、上人の子と雲ひけれども不審に覚て、名おば思ひもよらずと付たり、次の腹の子おば、時々には我坊にも忍々に通ければ、ひたすらに疑の心も薄くして、名おばさもあるらむと付く、後の妻は打絶我坊に置て疑心なかりければ、名おば子細なしと付く、是は当時の事也、