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文恭院殿御実紀附録

千住の辺に御放鷹ありし時、餌まき孫右衛門といふが、鳥飼の事、殊に高手なりしが、渠に宣ひしは、今日は殊更に鶴お手に入度と仰られしに、我右衛門、平生傲言の者なりしが、今日は某力おつくし候はんには、たやすく御手に入べしと放言せしが、果して御手に入たり、公〈○徳川家斉〉大に悦ばせ玉ひ、げに高名空しからずとて賞し玉ひ、此ごろ歌舞伎役者に、歌右衛門といふが世に上手なるよし、女も歌右衛門と名乗べしと命ありて、その名お拝領せしと、後までも人々に誇れりとぞ、