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太平記
三十六
清氏叛逆事附相模守子息元服事
相模守〈○細川清氏〉は、気分飽まで侈て、行跡尋常ならざりけれ共、偏に仏神お敬ふ心深かりければ、神に帰服して、子孫の冥加お祈らんとや思れけん、又我子の烏帽子親に可取人なしとや思けん、九と七とになりける二人の子お、八幡にて元服せさせ、大菩薩の烏帽子子に成て、兄おば八幡六郎、弟おば八幡八郎とぞ名付ける、此事軈て天下の口遊と成ければ、将軍〈○足利義詮〉是お聞給て、是は隻当家の累祖伊予守頼義、三人の子お、八幡太郎、賀茂次郎、新羅三郎と名付しに異ず、心中にいか様、天下お奪はんと思ふ企ある者也と、所存に違てぞ思はれける、