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白石小品
武家官位の事
足利殿の代盛り迄は、御家人の官位、各古の制お存せられき、されば其比迄は太郎左衛門、三郎兵衛、四郎兵衛など聞へし輩、皆々四府の尉にして、六位せしもの共、其字お、
昔武士の字といひしは、今の代の名と雲ふ事の如し、
其官にあはせて呼しなり、左右の衛門大夫、左右の兵衛大夫など聞へしは、皆これ叙留の輩なり、〈○中略〉又其代の人、たとへば 〓物太郎、蔵人次郎、左近太郎、右馬次郎などいひ、相模太郎、隠岐次郎、武蔵五郎、陸奥六郎などいひしも、皆是其父の官途し受領せしことお其家の面目として、其子おかくはいひし也、権太郎、介八郎などいひしも、其父其国の権守、其国の介などになされしが子息等にて、源内、平内、藤内、橘内などいひしは、みづから内舎人となされし輩なり、