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玄同放言
三上/人事
姓名称謂
取父祖片以名子孫事、こは延喜天暦の年間より、その萌見えたり、しかれども藤氏に、時平、兼平、忠平、仲平のごとき、兄弟その名に、ひとしく平字お命け給へるのみ、父祖の片名お取り給ひしにはあらず、平家には貞盛繁盛あり、これも兄弟なり、円融花山のおん時に、源氏に、満仲、満季、満快、満重あり、是も亦兄弟なりき、爾後頼信、頼義、義家、義親、平家には正度、正衡、正盛、忠盛に至りて、父祖の片名お取ること恒になりぬ、唐山にも父祖の名お嗣ぐこと希にあり、さりとてこの土のごとくにはあらず、語は日知録巻廿三に見えたり、文多ければ載せざるなり、本書に就きて見るべし、しかはいへども、よに人の弟子たるもの、その師の片名お取りて、おのが名とし、或は亡師の名号お受けつぐ事、ふるくは和漢に所見なし、〈○中略〉浄土宗の誉字、日蓮宗の日字は、これらお濫觴とすべし、それより又おし移りて、巫医百工、及文人墨客まで、各その師の名号お一字、わが名に受けつぐなるべし、