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無名秘抄
九条殿、〈○藤原兼実〉いまだ右大臣と申せし時、人々に百首歌よませ給ふこと侍き、その度いみじき人々ひが事よみて、終には異名さへつき給ひにき、ちかく徳大寺の左大臣〈○実定〉は、無明の酒お、なもなきさけとよみ給へりしかば、なヽしの大将といはれ、五でうの三位入道〈○藤原俊成〉は、この道の長者にています、しかれどふじのなるさはおふじのなるさとよみて、なるさの入道、名なしの大将とつがひて、人にわらはれ給ひしかば、いみじきこの道の遺恨にてなん侍し、おの〳〵是ほどの事しり給はぬにはあらじ、思わたり侍りけるにこそ、